ねこも杓子も保定がすべて
”犬や猫を診る”という仕事をして15年。
動物を押さえることを保定(ほてい)といいます。
採血なんかをするときはもちろん、
口の中をみるとか、耳や眼をしっかりみるとかってときに、
人間の赤ちゃんや幼児も動物も、
コトバが伝わらないうちは”保定”が必要。
血ぃ採るから手だしてね、ハーイ、とはいかないから。
保定は授業で習うようなもんじゃないので、
大学出たての新人の頃はこれがなかなかうまくいかず、
看護師さんの足元にも及びませんでした。
病院によって方針は違うのだけど、
私は最初にガッツリ系を教えてくれる病院にいて、
看護師さんやトリマーさんから技術を習いました。
トリミングで通うわりとヤンチャな犬がいて、
耳毛抜きとか耳掃除とかをトリマーさんがやるために、
獣医が保定してアシストしないといけなかったので、
とにかくガッツで頑張るしかない!
咬まれないように、動かないように、
しかもシュナウザーで筋肉隆々なやつ・・・。
究極の保定技術はあの病院で得たんじゃないかなーと思います。
動物の診療はアシスタントと二人三脚で、
そのアシスタントが看護師さんではなく飼い主さんのこともあるけど、
スムーズに診察できるかどうかは、
アシスタントの技術に左右されるといっても過言ではありません。
適切に保定できる人間がいなければ、
獣医も一緒に泣き寝入り、ってことになるので、
自分がもう一人いたら・・・と思うこともありました。
保定に関してのみ言わせてもらえれば、
飼い主さんにパートナーになってもらえることはなかなかありません。
動物がちょっと動くと、驚いたり可哀想だと思って手を放してしまうので、
安心して作業が行えないこともしばしばで、
採血に失敗したり咬みつかれて動物もこっちも嫌になってしまう可能性があります。
そうかといって、ガッチリ押さえてもらうと、
やることなすこと嫌な思い出になってしまうかもしれない。
そんなトラウマを作らないためにも最初が肝心。
基本的には保定が必要
動物が動くと動物がケガをしてしまうこともあるし、
私たちがもし咬まれてしまったら仕事にも支障をきたします。
何よりも、次に来院したときには、
まだ何もしてないのにすでに戦闘態勢・・・なんてことになりかねない。
たいていの子は、何かするにはどうしても保定が必要になります。
だから獣医も動物もお互いに安心して診察するためには、
保定技術のある人とタッグを組みたいと思うものです。
押さえられてる姿を見たくない・・・
人間の赤ちゃんや幼児では、
耳鼻科に連れて行って耳の処置をしたり、ワクチン接種するときとか、
看護師さんがむちゃくちゃガッツリ押さえます。
泣きわめいてもおかまいなし。
それよりズレたりして危険な目にあうほうがかわいそうなので、
オタオタしている新人ママさんたちが声を上げると叱る先生もいます。
うちの耳鼻科のおじいちゃん先生はそうでした。
でもほんと、そういうものなんです。
採血するのにチクっとするのは痛いけど、
それがかわいそうだっていうなら病気を治してあげられない。
動いちゃってよく診れないからわからない、ってことは、
その子は適切な治療が受けられないよ、ってことにもなってしまいます。
だから、プロはガッツリ保定を習得することが大切で、
検査を受けるためにも押さえるという行為はどうしても必要なんです。
押さえればいいってもんでもない
でも実際にはどうかというと、ガッツリがベストってわけではありません。
技術として必要だけど、それはどうしても必要な診察を行うためだけであって、
一番大切なのはトラウマを作らせないこと。
ねこもいぬもガッツリ押さえられたら嫌がる子が多いです。
全然へっちゃらなダラダラねこもいるけど、
それは珍しいと思っていたほうがいい。
最初はよかったけど途中からキレるとかってこともよくあります。
モタモタ爪切りやってたら、
おせぇよ!もういいよ!!!! みたいなねこさん、結構います。
嫌がらずに色々させてくれる子だって、
採血だとか診察だとか理解しているわけはないから、
うちの子優秀!って思うかもしれないけれど、
実際には優秀ってことはありえなくて、
むっちゃノーテンキねこさんか、ガチガチに固まっちゃって我慢強い子で、
実は超ストレス受けてるだろうと思います。
こういう子にこそごめんね、と言いたいですね。
素早くやる、痛くなくやる
トラウマを作らないために一番必要なのは、
痛くない保定と短時間で済ますことです。
注射なんてどんなに頑張っても痛みをゼロにすることはできないので、
せめて保定の痛みはゼロにするべき。
だから力で保定しては絶対にダメ。
それからモタモタしたり何度もやり直すのもダメ。
そこで、お家で爪を切るときなどにも役に立つので、
ねこの前肢を伸ばす簡単な方法を紹介しようと思います。